第83回サイエンスカフェ@ふくおか 開催報告

3月4日に開催された第83回サイエンスカフェ@ふくおかの開催報告です。

 

83回のサイエンスカフェのテーマは

「空飛ぶクルマ」と未来社会!

~福岡・九州における可能性と課題~

 

 空飛ぶクルマと聞くと、映画や小説の中だけのものと思っている方も多いと思いますが、既にかなり実用化に向けた動きが進んでいます。

 ところが実際に普及するためには超えなければならない壁がまだまだあるようです。

 今回は科学技術が社会に普及する際に考えるべき問題について、九州大学大学院法学研究院小島立教授にお話しいただきました!

 

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、今回もBIZCOLIさんのZoomを用いての開催となりました。

 

講師の小島立先生(右上)と参加者、スタッフの皆様

 

小島立先生のプロフィール

 

 福岡県直方市出身。東京大学とハーバード・ロースクールで法律学を学び、2005年から九州大学で教育研究に従事しています。専門は、知的財産法、文化政策、科学技術イノベーション政策です。私たちは日々の生活で、様々な科学技術の成果や文化的表現に囲まれて生活しています。私たちがそれらの知的生産活動の成果を、質が高い状態で、公平に、誰も取り残さず、持続可能な形で享受できるような社会を形作るためには、どんな努力を積み重ねていくべきなのでしょうか。現在は、今回のサイエンスカフェのテーマである「『空飛ぶクルマ』の社会実装において克服すべきELSIの総合的研究」という文理融合研究で研究代表者を務めています。電動飛行機、超電導モーター、オートパイロット、空の交通政策、都市社会学など、いわゆる「理系」の分野を含めて、毎日が新たな学びの連続です。

 

 

空飛ぶクルマの歴史と概要

 古くから人は空を自由に飛ぶということには興味津々だったようで、空飛ぶクルマの発想自体は100年以上前からあったそうです。1950年頃からは実際に開発も行われてきましたが、実用性の低さや技術的な課題もありなかなか進展はありませんでした。ところが近年のEVやドローン、AIや通信技術の発展・普及により急速に開発が進んでいます。

 ここで既存の空の乗り物としてヘリコプターでは駄目なのかと思う人もいると思います。空飛ぶクルマのメリットとして、電動化による静穏性省スペースで着陸が可能なため、手軽な移動手段として多様な分野での活躍が期待されています。

 

空飛ぶクルマの最近の状況

 中国のEhangは既に観光遊覧飛行をしており、ドイツのVolocopterはシンガポールで3年以内にエアタクシーサービスを開始するそうです。日本でも2018年には官民協議会が立ち上げられ、2020年には国内企業のSkyDriveが試験飛行に成功しています。

 こうなると社会に実装されるのは時間の問題という気がしますが、本当にそうなのでしょうか。

 

RInCAELSI

 ここで今回のサイエンスカフェ開始時に参加者の方へのアンケートを実施した結果を見てみると、多くの参加者が空飛ぶクルマに乗ってみたいとの好意的な意見を持っている一方で、空飛ぶクルマに乗ることや周囲を飛ぶことには不安を感じていることが明らかになりました。

 この不安の原因は、多くの人にとって空飛ぶクルマが未知の乗り物であり、実際に運用されたときに様々な問題が起きるかもしれないというところからきているのではないでしょうか。

 このような新しい科学技術に関する倫理的・法制度的・社会的課題のことをELSIEthical, Legal and Social Implications/Issuesと呼びます。

 小島先生の携わるJST RISTEXのRInCAプログラムでは、最先端技術の研究・開発の初期段階から並行してELSIに取り組み、そこでの発見や予見を技術開発に反映させながら、責任のある社会実装・普及につなげるモデルを目指しています。

 

空飛ぶクルマのELSI

 空飛ぶクルマが抱える課題は多種多様であり、小島先生の研究グループでは、低エネルギー負荷の実現を検討するグループ、関連する施設等の整備や生活環境との調和を検討するグループ、スマートモビリティサービスの実現を検討するグループ、法整備などの領域横断的な課題を検討するグループの4つに分かれて課題の検討をしているそうです。

 

空飛ぶクルマは普及するか?

 最後に今日のサイエンスカフェを受けて、「空飛ぶクルマは普及すると思うか?」というアンケートが取られ、その結果は普及すると思う人と普及しないと思う人が半々という結果になりました。

 この結果を見ても、一つの新しい技術が実際に社会に受け入れられ普及するためには色々な課題をクリアする必要があるとあらためて感じました。